これは2月の末に愛猫を腹部の腫瘍が原因で死なせた際に書いた日記。忘れたくないので再録します。
10年間、一緒に暮らしていた猫が死んだ。つい今しがたのことだ。
腹部に腫瘍が出来て食べてもみんな吐いてしまい、ガリガリに痩せて、病院に連れていった時にはとっくに手遅れになっていて、5本の注射と点滴1本も役には立たなかった。
黒猫だった。肉球以外は真っ黒で、メス。元々は野良猫で、でもはじめから人懐こかったから捨て猫だったんだろう。おとなしくうずくまっていて、頭を撫でると自分から強くこすりつけてきた。あまり鳴かない猫だった。
だから、家を建て直す時にも他の猫は近所に借りた小屋に移されたのに、この猫だけはアパートに連れていって管理人にもばれなかった。
たまに鳴く時には小さくか細い声で甘えるように
「ナァ」
と、鳴いた。名前もそのまま、ナァと呼んでいた。
家の建て直しが終って、仮住まいだったアパートでそのまま一人暮らしを続けた時にもナァはおれと残った。家には家で親の可愛がる猫がたくさんいたからだ。
それから、彼女が出来、半分同棲したような暮らしを続けていた時にも、彼女が出て行って元の一人暮らしに戻ってからも、経済的に苦しくなって家に戻らざるをえなくなってからもナァはずっと一緒だった。
子供の頃に避妊手術を受けさせたので子孫を残すことも無く、ずっと子猫のように甘えん坊でか細い声で「ナァ」と、鳴いていた。
よく食べたものを戻す猫だった。毛玉が溜まりやすかったようだ。だから、最近よく吐くようになってもそれほど深刻には考えなかった。
頻繁に吐くになって、食べたものをほとんど戻すようになっても食欲は旺盛だったので心配するよりもゲロの処理が面倒なのに腹を立てていたくらいだ。
ゲロがまるでウンコのような臭いがするようになって、痩せているのが目立つようになったのはここひと月ほどのこと。
金の無い時期だったので給料が入るのを待ってから獣医に連れていった。
腹部に大きな腫瘍が出来ていた。手術も体力が落ちているので出来ない、と言われて帰ってきた。取り合えず点滴で体力が回復するのを待ってから、という話しだったが身体の中に入った点滴の栄養分はみんな垂れ流しの尿となって出て行ってしまうだけだった。
夜中に目を覚ますと、ベッドの側でうずくまっていた。布団の中に入れて添い寝をしているとどんどん呼吸が弱くなっていくのが分かった。
死ぬ1時間前に三回ナァと鳴いた。いつもの甘える声だった。
最近のコメント